子供への紫外線対策 ― アンケート調査の結果からわかること

准教授(現教授) 伊吹 裕子 (Assoc. Prof. Yuko Ibuki)
光環境生命科学研究室

紫外線について意識したことがありますか?私たちは太陽光中に含まれる紫外線を毎日浴びているわけですが、紫外線は、しわ、しみの原因であるし、皮膚がんのリスクを高めることは皆さんご存じであると思います。世界保健機構WHOは、ここ数十年で悪性黒色腫をはじめとする皮膚がんが増加していることを警告しています(http://www.who.int/uv/en/)。イギリスでは1980年代始めに比べ皮膚がんの罹患率が約2倍になっていることが報告されていますし、極域ではオゾン層破壊が原因で紫外線量が増加していることからも、紫外線防護の重要性がクローズアップされています。日本人は肌の色が黄色であり、白人よりもその影響が少ないため、紫外線に対する意識が低いのですが、ここ数年は紫外線を意識して生活される方も増えているようです。また、子供の頃は紫外線に当たってもしみやしわにならないので、紫外線の防護は大人になってから行えばいいと思いがちですが、紫外線によってできる傷は蓄積するので、子供の頃からきちんとした対策が必要とされています。本コラムでは、なぜ子供への紫外線対策が必要なのかを述べた後、これまで光環境生命科学研究室で行ってきた紫外線に対する意識調査、中でも小学生の子供をお持ちのお母さん方の紫外線対策への意識について調査した結果をご紹介したいと思います。

1. なぜ子供の紫外線対策が必要か

昔の母子手帳には日光浴をさせていますか?という設問がありましたが、現在では外気浴をさせていますかという文言に変わっています。紫外線は体内でビタミンDを作り出す効果がありますので、昔はくる病防止のために浴びた方がいいと考えられていましたが、食物などから十分なビタミンDを補給できる現在では、紫外線の害がクローズアップされ、浴びないほうがいいと考えられるようになっています。中でもどうして子供への紫外線防御が必要か、その理由の一つを“DNAへの傷”を例にお示ししましょう。

紫外線は細胞中のDNAに傷をつけます。地上に届いている紫外線にはUVAとUVBがありますが、特にUVBはそのエネルギーがDNAに吸収されやすく、ビリミジンダイマーといってDNA中の隣同士の塩基を結合してしまいます。大抵のものは私達の体に本来備わっている機構により修復されますが、たまに修復されずに細胞が分裂していきます。細胞は分裂するときにDNAを複製する、すなわち相補的な塩基(アデニン(A)とチミン(T), シトシン(C)とグアニン(G))を配置しDNAを合成するわけですが、ビリミジンダイマーが存在すると、正しい塩基を配置できず間違った相補的でないDNAを合成してしまいます(図1)。細胞は分裂していきますから、この塩基の間違いがDNAの傷として、次々に細胞に受け継がれます。一生に浴びる約半分の紫外線を18歳までに浴びてしまうこと、子供は細胞分裂が盛んであること、できた紫外線の傷は分裂細胞に受け継がれる、蓄積していくことを考えると、子供の頃からの対策が必要であることがわかります。

図1 紫外線照射によるDNA変異の一例
図1 紫外線照射によるDNA変異の一例

2. 紫外線防護の意識調査―みんな紫外線に興味を持っている

図2 自分自身に紫外線対策をしている
図2 自分自身に紫外線対策をしている

子供の紫外線対策。自ら進んで紫外線について考える、そんな子供はいないでしょうから(多分)、親の意識が重要になります。では、紫外線に対して、子供を持つお母さん達はどのような意識を有しているのでしょうか。これまでに、私の研究室で行った紫外線防護に対する意識調査において、興味深い結果を得たのでその一部をご紹介しましょう。小学生の子供を持つ母親(113人)にアンケートを行いました。また、その対照として大学生(男性43人、女性70人)へのアンケートを集計、解析しました。

―紫外線に興味がありますか?―

母親および大学生とも女性は9割以上が紫外線に興味を有していました。一方、男性(大学生)は約半数でした。

―紫外線対策をしていますか?―

紫外線対策をしているかどうかを聞きました(図2)。前の質問で紫外線に興味があると答えたグループでは、その対策も高い割合でなされていました。興味がないと答えたグループでは、その対策率は低く、男性にいたっては紫外線対策をしている人はいませんでした。では、紫外線に興味があるのに、なぜ対策を行わない方がおられるのでしょうか。紫外線対策を行うか否かはいずれの要因で決まるのでしょうか。

3. 紫外線対策をするか否かはどこで決まる?

紫外線に興味があると答えた母親群、女子大学生群を対象にし、各群において、紫外線に対する知識の保有について調査しました。14項目について、例えば、「日焼けサロンでは紫外線にあたる」、「SPFとはUVBをどれだけ防御できるかの値である」、「子供時代にあったった紫外線の量が将来のしわ、しみの量を左右する」など、内容を知っているかどうかを尋ねました。

図3 母親および大学生における紫外線に関する知識の保有
図3 母親および大学生における紫外線に関する知識の保有
図4 紫外線に関する知識の保有
図4 紫外線に関する知識の保有
―紫外線対策有無への寄与―

14項目、すべてのデータをお示しすることはできないので、上述した項目だけをお示ししますが、女子大学生群では、紫外線対策をしていない人では、紫外線対策をしている人に比べ、明らかにその知識が少ない傾向がありました(図3)。一方、母親群では、紫外線対策をしている人もしていない人も、その知識の保有状況がほとんど同じでした。女子大学生群では、紫外線の知識が欠如しているためにその対策を怠ると容易に想像できます。一方、母親群はどうして知識を有しているのに紫外線対策を行わない人が出現するのでしょうか。

紫外線の知識を問う14項目の中に、「紫外線カットクリームで紫外線を完全防御できる」、「紫外線は一枚の布でカットできる」という紫外線防護に関する重要項目が2つ含まれていました。前述のように、母親群では紫外線対策をしている人もしていない人も、その知識の保有状況がほとんど同じでしたが、この2項目に関してだけは、紫外線対策をしない人において、それを知らなかったと答える割合が多かったのです(図4)。つまり、母親群は、家事、育児など非常に忙しいなどの理由から、紫外線対策を怠りがちですが、紫外線が簡単に防御できるということを知っていれば対策をする可能性があると考えられました。よって、紫外線の知識を正確に伝えることが重要であると考えられました。

4. 自分に紫外線対策をする母親は子供にも対策を行う

母親が子供への紫外線対策をしているか否かについて、紫外線に興味があると答えた母親群を、自分に対策をしているグループとしていないグループにわけて調査しました。自分に紫外線対策をしているグループはしていないグループに比べ、子供への紫外線対策をしている率が高い傾向にありました(データ省略)。また、特筆すべきは、小学校でのプール授業などの際、紫外線カットクリームを使用することを認めて欲しいとする割合が、自分に紫外線対策をしているグループはしていないグループに比べ非常に高かった点です(図5)。子供の紫外線対策を行うためには、母親の紫外線に対する意識を改革することが重要であることが改めて示されました。

図5 学校で紫外線カットクリームの使用を認めて欲しいと思いますか
図5 学校で紫外線カットクリームの使用を認めて欲しいと思いますか

5. 子供への紫外線対策について

紫外線に対する意識が高まる中、逆にその危険性を意識しすぎて、過剰の紫外線防護をする場合が見受けられます。私達は紫外線の傷を治す機構を元来備えていますので、いかなる紫外線も浴びてはいけないというほど神経質になる必要はありません。ただ、皮膚が赤くなるような急激な日焼けは、特に子供には避けるべきでしょう。皆さん驚かれるのですが、薄い布一枚で非常に効率よく紫外線をカットすることができます。簡単にできる紫外線対策を心がけてみたらいかがでしょうか。最後に、WHOのホームページに掲載されている紫外線対策法をご紹介して本コラムを終わらせていただきます。

  1. Limit time in the midday sun (日中(10:00〜16:00)の外出を控えましょう)
  2. Watch for UV index (UVインデックスをみましょう)
  3. Use shade wisely (日陰を有効に利用しましょう)
  4. Wear protective clothing (帽子、サングラスなどで防御しましょう)
  5. Use sunscreen (サンスクリーン剤を使いましょう)
  6. Avoid sunlamps and tanning parlours (日焼けサロンに行くのはやめましょう)

(以上)

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