次世代バキュームカー

助教 関川 貴寛 (Assist. Prof. Takahiro Sekikawa)
環境工学研究室

目次

  1. はじめに
  2. バキュームカーの誕生
  3. 浄化槽汚泥濃縮車の誕生
  4. 浄化槽汚泥濃縮車のしくみ
  5. 浄化槽汚泥濃縮車の導入効果
  6. おわりに
  7. 引用

1.はじめに

私は環境工学研究室で水処理技術に関する研究を行っています。本コラムでは移動式水処理装置の中でも特にユニークな次世代バキュームカー“浄化槽汚泥濃縮車”を紹介したいと思います。

平成20年度の下水道人口は9,241万人(72.7%)、浄化槽人口は1,127万人(8.9%)であり、汚水処理人口普及率は84.8%に達しています[1]。1980年代以降、下水道の普及によりバキュームカーの台数は急速に減少しましたが、下水道が完備されていない地域での屎尿汲み取りや浄化槽の清掃など、今でも全国で約2.1万台(2006年5月末現在)のバキュームカーが活躍しています。

一般的な浄化槽の清掃は、バキュームカーで汚泥全量を引き抜き、その後、給水車あるいは水道水で張り水をして完了です。しかし、浄化槽汚泥の濃度は2%以下(含水率98%以上)であるため、バキュームカーはあたかも水を運んでいるようなものです[2]。そこで作業効率の向上および水のリサイクルを実現するために開発されたのが、次世代バキュームカー“浄化槽汚泥濃縮車”です。従来のバキュームカーに比べて運搬汚泥量を10〜40%に濃縮することができるので、運搬燃料費とCO2排出量の削減効果も期待できます。

2.バキュームカーの誕生

占領軍が下水道の普及していない日本での屎尿処理(汲み取り)の余りの非衛生ぶりに驚き、改善を要求したことから、当時の厚生省は「真空車」を開発し、1949年に川崎市にむりやり購入させましたが、オート三輪でタンク車を牽引する全く実用性の乏しいものだったので、川崎市の初代清掃課長工藤庄八氏が1トントラックにタンクを載せる現在の方式を考えて町工場で開発を進め、1951年に「バキュームカー」と名づけて実用化しました[3]。バキュームカーは和製英語であり、英語圏では"vacuum truck"または"septic truck"と呼ばれています。

3.浄化槽汚泥濃縮車の誕生[4]

1980年頃には東急車輛株式会社が浄化槽汚泥濃縮車の開発に着手し、発売されましたが、この段階では作業時間が比較的長いこと、社会的ニーズの高まりがなかったことから、多くの販売には至りませんでした。その後、より作業性を向上させ、通常の清掃作業に従事する方々でも若千の訓練で行えるものが、株式会社モリタエコノス(浄化槽水リサイクル車)から1995年に販売が開始され、徐々にではありますが進展する傾向が示されました。その後、兼松エンジエアリング株式会社(モービルコンカー)と新明和工業株式会社(汚泥濃縮車)が独自に開発し販売を開始しました。

4.浄化槽汚泥濃縮車のしくみ[5]

浄化槽汚泥濃縮車は浄化槽清掃において発生する汚泥を凝集剤により汚泥と分離水に分け、これまでよりも量を減らした状態で処理場に搬入し、分離水については清掃後の浄化槽の立上げ用にもう一度利用することができる車両です。従来のバキュームカーのタンクを二層構造とし、一方を凝集反応タンク、他方を汚泥貯留タンクとし、薬剤注入による凝集処理及び固液分離設備を付加した構造になっています。

浄化槽汚泥濃縮車(浄化槽水リサイクル車)のフロー
図1.浄化槽汚泥濃縮車(浄化槽水リサイクル車)のフロー[5]

以下、一般的に行われている作業フローです。

  1. 浄化槽内のスカムを汚泥タンクに吸引する。
  2. 浄化槽内の中間水を反応槽に吸引する。
  3. 浄化槽内の推積汚泥を汚泥タンクに吸引する。
  4. 反応槽にて空気攪拌を行いながら凝集液を添加、フロックを形成する。
  5. 反応槽を減圧しフロックを減圧浮上させる。
  6. 反応槽の汚泥水を分離機に排出し、国液分離した処理水は浄化槽に張り水として返送、汚泥は汚泥タンクに吸引する。

5.浄化槽汚泥濃縮車の導入効果[6]

バキュームカーと浄化槽汚泥濃縮車の比較調査を福島県いわき市環境整備事業協同組合と福島県県北清掃共同組合において2000年11月〜2001年1月までの期間および2001年4〜5月までの期間に実施しました。その結果、バキュームカーの投入量に対する濃縮汚泥量の割合は、単独処理浄化槽では16.1%、合併処理浄化槽では39.1%を示し、減容化の実態が確認されました。また一件当たりの平均走行距離はバキュームカーの場合、単独処理浄化槽、合併処理浄化槽それぞれ14.1kmおよび16.1kmであったのに対し、浄化槽汚泥濃縮車の場合、それぞれ6.2kmおよび7.8kmであり、導入による運搬燃料費の削減効果が明らかになりました。

6.おわりに

浄化槽汚泥濃縮車導入によるランニングコストおよびCO2排出量の削減に関する事例は多々報告されていますが、普及台数はバキュームカーの約2.1万台に対して約180台(2006年5月末現在)にすぎません。なかなか普及が進まない理由のひとつとして高額な車両価格(バキュームカーの2倍以上)が挙げられます。他にも行政や関係業界への働きかけなど解決しなければならない課題は少なくありません。本コラムをきっかけに“浄化槽汚泥濃縮車”だけではなく“浄化槽“にもまた関心を持っていただければ幸いです。

7.引用

  1. 環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部廃棄物対策課浄化槽推進室:平成19年度末の浄化槽の普及状況について,環境省,平成21年8月20日.
  2. 里見泰一郎:浄化槽汚泥濃縮車の構造と特徴(2)−東急車輛製造(株)−,都市清掃,61(285),423-426, 2008.
  3. 村野まさし:バキュームカーはえらかった!-黄金機械化部隊の戦後史-,文藝春,1996.
  4. 岡城孝雄:汚泥再生処理センターと浄化槽汚泥濃縮車,都市清掃,61(285),431-437,2008.
  5. 上田守弘:浄化槽汚泥濃縮車の構造と特徴(1)−(株)モリタエコノス−,都市清掃,61(285),420-426, 2008.
  6. 渡邉孝雄ら:浄化槽の清掃作業原単位に関する検討,浄化槽研究,14(1),15-23,2002.

(以上)

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