概要

 荒井綜一らを代表とする日本の研究グループによって「食品機能論」が提唱されました(Nature 1993)。食品とその成分には栄養機能(身体の健康維持に必要な栄養素としての機能)、感覚機能(おいしさを生み出す嗜好成分の機能)、生体調節機能(病気の一次予防の助けとなる機能)があるという考えです。栄養機能や生体調節機能の研究は健康長寿に貢献する科学として世界的に注目を集めており、また感覚機能(おいしさ)は食生活を豊かにする上で最も重要であると言っても過言は無いでしょう。当研究室では、おいしさや健康に関わる食品成分の分子機能解析から高付加価値な食品の開発を目指す”食品機能開発化学”を推進しています。

 

Keywords:おいしさと健康、味と香り、分子メカニズム、ヒト味覚受容体・嗅覚受容体、酵素、栄養素輸送体、機能性食品素材と有効成分、培養細胞を用いた評価系、ハイスループットスクリーニング

おいしさの分子設計技術の開発

 食品開発において、おいしさのデザインは非常に重要かつ難しい課題です。嗜好食品はもちろん、トクホや機能性表示食品のような健康効果を目的とする食品であっても、食べ続けるためにはおいしさが求められます。当研究室では、培養細胞を用いたヒト味覚・嗅覚受容体の客観的・定量的な解析システムを開発し、未だ不明な点が多い”味と香り”の分子メカニズムの解明を目指しています。本研究は新規味成分の探索・創製による苦味マスキング剤の開発、後味の良い低カロリー甘味料の開発、香りのプロファイリング技術の構築等を通じて、テーラーメイドな「おいしさ制御技術」の確立へとつながることが期待されます。

 

【最近の成果】

ペプチドアレイと培養細胞を組み合わせた新しい苦味マスキング技術を開発しました

味覚受容体の解析により新しい”コク味”成分を発見しました

酵母等の発酵微生物において香り成分の生成を増強する方法を開発しました

香酸柑橘の香り成分による清涼感(冷感刺激)のメカニズムを明らかにしました


図:ヒト味覚受容体発現細胞を用いた味の客観的・定量的解析
食品機能解析法の開発

 健康寿命伸延や医療費抑制が喫緊の課題となる中、食品成分の持つ生体調節機能が注目されています。本研究室では、科学的根拠に基づく食品機能成分探索を効率化するため、創薬標的分子でもあるGタンパク質共役型受容体、栄養素輸送体、イオンチャネル等について、バイオインフォマティクスや有機化学の専門家、食品素材メーカーとも連携しながら、ハイスループットな機能解析システムの開発を進めています。また近年では、味蕾や嗅上皮だけでなく皮膚や消化管、筋肉等の組織においても味覚・嗅覚受容体が発現し、化学物質の感知によって抗2型糖尿病、抗肥満、皮膚バリア機能改善等の生体調節機能に関わることが明らかとなってきています。そこでこれらの“身体が感じる味と香り”に着目した新しいコンセプトの食品機能研究にも注力しています。

 

【最近の成果】

抗2型糖尿病効果の期待できるDPP-IV阻害ジペプチドを網羅的に解析しました

他の機能性成分の効果を増強する新しいタイプの機能性ペプチドを発見しました

栄養ペプチドの生体吸収に関わるペプチド輸送体の基質多選択性を明らかとしました

廃棄茶葉を原料とした機能性ペプチド素材を開発しました


図:ペプチドアレイを用いた機能性ペプチドの網羅的探索と設計