研究概要

1983年 K. M. Ulmer によって提唱された蛋白質工学という概念は、 遺伝子工学的な手法を中心に、蛋白質の結晶構造解析やコンピューターグラフィックスやシミュレーションなども含む、総合的な技術の集成です。これらの技術の発展は著しいですが、いまだに任意の機能をもつ蛋自質をデザインするには至っておりません。このような技術が完成し、医薬・食品分野へ応用されれば、 人類の生活をさらに健康的で豊にすることでしょう。私たちの研究室では、蛋白質工学の基礎的な研究と共に食品分野を始め、様々な分野への応用を目指した研究を行なっています。


1. 糖質関連酵素や香り成分合成酵素の構造機能解析
 アミラーゼ・プルラナーゼなどの糖質関連酵素は、 食品工業で最も多く用いられている酵素です。 好熱性放線菌 T. vulgaris R-47 は、共に特殊な基質特異性を持つ 2種類のアミラーゼを生産します。また柑橘類等に存在するモノテルぺン合成酵素は、その主な香気成分であるモノテルペンを産生します。モノテルペンは抗菌・抗酸化活性または鎮静・不安緩解効果を持つため、アロマテラピーを含め様々な用途で用いられています。これらの酵素の基質認識機構を明らかにし、 さらには基質特異性を変化させることを目的として、X線結晶構造解析や蛋白質工学の手法を用いて研究を行っています。構造解析には筑波高エネルギー加速器研究機構・播磨大型放射光施Spring-8などの放射光施設を利用しています。
2. 酵素の耐熱化機構の解明
 好熱菌の酵素の安定性・耐熱性の獲得機構を明らかにすることは、 安定な蛋白質をデザインすることに重要です。 好熱菌・中温菌・低温菌のピルピン酸キナーゼはその耐熱性が 大きく異なるにもかかわらず、その一次構造は約70%が同一です。 残りの30%のアミノ酸配列のなかに耐熱性を決定する部分があると思われます。また超好熱性古細菌Thermococcus litoralisの産生する酵素(グルコキナーゼやホスホフルクトキナーゼ等)は沸騰水中でも安定な酵素です。 キメラ酵素の作製や部位指定変異の導入によって、 耐熱性決定機構を明らかにしたいと考えています。
3. 様々な酸化還元酵素の構造機能解析
 酸化還元酵素は有用物質の合成や、食品試料中の特定化合物(食品添加物やアミノ酸など)の濃度定量に使われています。我々はアミノ酸、アルコール、アミンや窒素酸化物に作用する酵素群について、それらの作用機構を明らかにすることを目指しています。X線結晶構造解析や生化学的手法に加え、分子動力学法(MD)や量子化学計算(QM)など、計算化学的手法も用いて研究を進めています。
4. コンピュータ解析とin vitro実験を融合した新たな蛋白質工学手法の開発
 次世代シーケンサーに代表される技術は、莫大なデータを高速で生み出します。このデータを加工して有効活用する手法は、創薬や酵素応用の分野にブレイクスルーを生み出す可能性を秘めています。我々は酵素機能を向上させる変異点(hot-spot)を、データベースに登録されている一次配列情報から探索する手法の開発を進めています。本手法を応用してデータベースから酵素の配列を人工的に全設計し、機能を持った酵素を作りだすことにも成功しています(以下のHNL85, HNL54, HNL30)。コンピュータ解析の結果を、実験で確認することを通して研究を進めています。
5. 計算化学及び蛋白質工学用のソフトウェア開発
 コンピュータを用いて蛋白質工学研究を行う上で、使いやすいソフトウェアを開発することは必要です。我々は4.で開発した手法を実行するためのソフトウェアを開発しています。また計算化学の結果(タンパク質)を可視化するためのPyMOLプラグインも開発しています(立教大学 常盤教授との共同研究)。プラグインの開発は、H27年度 統合化推進プログラム[統合データ解析トライアル]の助成を受けて行いました。