ページトップ

お知らせ

トップページ > お知らせ > 食品たん白質や医薬品の生体吸収メカニズムを世界で初めて解明!

食品たん白質や医薬品の生体吸収メカニズムを世界で初めて解明!

~大豆ペプチドは吸収性に優れる~

食品栄養科学部の伊藤圭祐助教、吉川悠子助教、河原崎泰昌准教授らの研究グループは、食品たん白質や医薬品の吸収を担うペプチド輸送体注1 について、様々な物質を輸送する“基質多選択性注2”の全体像を世界で初めて解明しました。

本研究成果は、9月24日に、英科学誌「Nature Communications」電子版に掲載されます。

<論文名>
K. Ito, A. Hikida, S. Kawai, Vu T.T. Lan, T. Motoyama, S. Kitagawa, Y. Yoshikawa, R. Kato, Y. Kawarasaki. 
Analysing the substrate multispecificity of a proton-coupled oligopeptide transporter using a dipeptide library. 
Nature Communications 2013.  DOI: 10.1038/ncomms3502.

掲載URL: http://www.nature.com/ncomms/2013/130924/ncomms3502/full/ncomms3502.html
※オープンアクセスですので、どなたでも論文の内容を見ることができます。

背景
全生物が有するペプチド輸送体は、ヒトにおいては食品たん白質の加水分解物であるペプチドをアミノ酸よりもすばやく体内へ取り込む役割を担っています。また、ペプチド輸送体は8,400 種類以上ものバリエーションを持つペプチド群を認識・輸送することのできる“基質多選択性”によって各種医薬品の吸収担体としても機能していますが(図1)、これまで“基質多選択性”の詳細は不明でした。

方法と結果
本研究では、従来法よりもはるかに迅速・簡便なペプチド輸送体の機能解析法注3 を開発し、様々なペプチドや医薬品の生体吸収性を網羅的に解析しました。その結果、大豆たん白質等に多く含まれる芳香族・分岐鎖アミノ酸(ヒト必須アミノ酸注4)を含むペプチドがペプチド輸送体を介して特に高効率に吸収されること(図2、3)、さらにペプチド輸送体の“基質多選択性”は生物種を越えて保存されていることが明らかとなりました。また、得られた解析データと各物質が有する物理化学的指標を照らし合わせることで、コンピュータ上でペプチドや医薬品の生体吸収性を予測することにも成功しました。
本研究で解明されたペプチド輸送体の“基質多選択性”は生体にとって高価値なアミノ酸をペプチド形態として高効率に取り込む仕組みであり、生物学的に大変理にかなっています。ペプチド輸送体の“基質多選択性”の全体像は、食品の消化吸収に関する重要な基礎的知見でもあり、生体吸収性に優れた経腸栄養剤、スポーツ用途食品、発酵培養基材、また医薬品等の開発に多大な貢献が見込まれます。

注1)ペプチド輸送体:アミノ酸が数珠状につながった“ペプチド”を生体内へ取り込む分子。微生物から高等動・植物まで全ての生物が有しており、アミノ酸源の高効率な取り込みを担っています。
注2)基質多選択性: 1 つの輸送体がバリエーションに富んだ物質群を認識・輸送する性質。ペプチド輸送体は8,400 種類以上のペプチドや血圧上昇抑制剤、抗生物質、抗ウィルス薬、抗がん剤等の各種医薬品を認識・輸送できると考えられています。
注3)F-CUp 法:Fluorescence-based Competitive Uptake assay system。モデル真核生物である酵母をツールとして用いることで迅速・簡便にペプチド輸送体の機能解析を行なうことができる方法であり、従来法では困難であった膨大な数の基質について網羅的解析を可能としました。
注4)ヒト必須アミノ酸:ヒトが体内で合成できないため、食品として外界から取り込む必要のあるアミノ酸群。大豆たん白質等に多く含まれます。


※本研究は名古屋大学の加藤竜司准教授(創薬科学研究科)、不二製油株式会社との共同研究により実施されました。

図1. ペプチド輸送体を介して生体に吸収される物質。

 

図2. ジペプチドライブラリーを用いた網羅的解析結果。縦軸がN 末端、横軸がC 末端アミノ酸残基(1 文字表記)。赤いセルのジペプチドほどペプチド輸送体を介して吸収されやすいことを示す。

 

図3. ペプチド輸送体を介して吸収されやすいジペプチドの特徴。ヒト必須アミノ酸はW、F、H、(Y)、M、L、I、V、K、T。