塩素化多環芳香族炭化水素類(ClPAHs)は、大気中のみならず、河川水や底質などからも検出されている環境汚染物質である。しかし、我々の研究グループにより食品の加熱調理よってClPAHsが生成し、室外と比べ室内環境での人体への高濃度曝露が報告された。ClPAHsは、その母核となるPAHsと比較して、発がんなどの毒性発現に関係する芳香族炭化水素受容体(AhR)との活性が高まることが知られている。さらにPAHsと同様に生体内で代謝され、ヒト女性ホルモンのエストロゲン受容体(hER)の活性化も誘引することが危惧される。しかし、ClPAHs代謝物の分析用標準物質は、市場で流通しておらず入手困難であることから、ClPAHs代謝物の毒性に関する情報は特に限られている。
本稿では、ClPAHsの中でも特に環境中に多く存在する9-Chrolophenanthrene(9-ClPhe)の代謝物である9-Chlorophenanthren-10-ol(9-ClPhe-10-ol)の分析用標準物質を有機合成し、ヒト芳香族炭化水素受容体α(hAhRα)活性を評価した結果について報告する。