2006年9月5日
静岡県立大学 食品栄養科学部教授 横越 英彦
タウリン(8) 臓器の機能 維持に必要
私たちの体は細胞でできており、その細胞が機能を持つ集合体として器官となり組織を形成している。すなわち、健康を維持するためには、それぞれの細胞が生命活動をし、また、相互に情報交換をしなければならない。体重の約八割は水分であり、その体液を介して、栄養素や情報のやりとりを行っている。この体液は、海水とよく似た成分を含んでおり、私たちの汗も塩分を含んでいる。
しかし、海を泳いでいる魚は、全部、塩漬けのシャケのようになるかというと、そうならない。その理由は、細胞や身体への塩分などの出入りを調節しているからである。すなわち、浸透圧調節を行っており、この体内での浸透圧調節物質をオスモライトと呼んでいる。
タウリンは、このオスモライトとしての役割を持っている。例えば、海水魚と淡水魚を比較すると、海水魚の方がタウリン含量が高い。また、シジミは、海水域で採れる貝でタウリン含量が高く、汽水域、淡水域で採れるものほど、順にタウリン含量は減っていく。これらのことは、タウリンが浸透圧の調節に重要な役割を果たしていることを示している。
また、タウリンは、体内の各臓器がその機能を十分に果たすための恒常性維持のために必要である。そのためには、体内で必要な分のタウリン量を一定に保たなければならない。タウリンが減ってくれば、体からの消失を抑え、一方、過剰に摂取された場合には排せつを促進し、心臓や脳・神経系などの調整にかかわっている。
腎臓では、体内で不要になった老廃物などが排せつされるが、タウリンは必要以上に排せつされないように再吸収される。また、各臓器においても、必要なタウリンを取り込むための仕組みがある。このタウリンの取り込みを助けるための運搬屋としてタウリントランスポーターが存在する。
一般に、生体成分の流れは、濃度の濃い方から薄い方へ流れるが、その流れに逆らって積極的に取り込もうとするときに、このトランスポーターが働く。血液中のタウリン濃度は薄く、タウリンを必要としている臓器では、このトランスポーターの働きで、素早くかつ積極的に取り込むのである。この仕組みは、腎臓、脳、網膜、小腸などいろいろな臓器で見いだされている。
一方、タウリンが過剰に摂取された場合、その安全性はどうか心配になる。これまでの報告では、その副作用はほとんどなく、わずかに軟便になるという。タウリンは、もともと体内で合成され、水溶性の物質であるため、必要な部位で必要な量が利用され、余った分は素早く排せつされると思われる。