2006年8月22日
静岡県立大学 食品栄養科学部教授 横越 英彦
タウリン(7) 酒酔い、胃の炎症抑制に効果
暑気払いのため、ビアホールで汗をかきながらよく冷えた生ビールをぐっと飲むのは、夏の一つの風物詩であることに間違いはありません。酒は百薬の長といわれるように、適度な量であれば、その有効性も明らかにされていますが、飲み過ぎた場合には、二日酔いや悪酔いに悩まされます。このお酒(アルコール)に酔うということは、アルコールの中枢神経に及ぼす影響と分解産物であるアセトアルデヒドによる作用と考えられています。アセトアルデヒドが体内で分解処理されず、いつまでも残っていることが悪酔いの原因といわれます。
ウサギにアルコールを慢性投与し、その後の血中タウリン濃度を測定した結果、著しく低下していました。すなわち、アルコールの摂取により、タウリンがより体内で利用されたことを意味します。これまでに、タウリンは、このアセトアルデヒドの量を抑える作用のあることが調べられています。その作用は必ずしも明確ではありませんが、アセトアルデヒドの分解を高め、さらに排せつを促進していると考えられます。
例えば、アルコールを飲んだ後の酩酊(めいてい)状態からの回復に対するタウリンの影響を調べた研究では、タウリンは酩酊状態を抑えることがわかりました。また、実験動物でアルコールの禁断によるけいれんやイライラ症状が、タウリンで抑えられました。タウリンには細胞膜を保護する作用があり、このこととも関係しているかも知れません。ただし、ヒトの場合には、現状では明確にはなっていません。
次に、胃炎とタウリンとの関係です。ヘリコバクター・ピロリはピロリ菌ともいわれ、胃の粘膜に生息するらせん型の細菌です。慢性胃炎や胃かいよう、十二指腸かいようや胃がんなどにかかわっているといわれます。胃の中は、かなり強い酸性状態にあり、細菌などは生息できないと思われていましたが、今年、ノーベル生理学・医学賞を受賞したオーストラリアのロビン・ウォレン、バリー・マーシャルは、この細菌が胃に住み着き、胃の病変を引き起こすことを証明しました。
この細菌は、尿素を分解してアンモニアを作り出し、これで胃酸を中和して生き延び、感染を引き起こします。このアンモニアは、食事から入ってくる次亜塩素酸と反応して毒性の強いモノクロラミンを生じます。タウリンは、このモノクロラミンと反応して毒性のないタウロクロラミンに変えることにより細胞障害を抑えます。すなわち、ピロリ菌による胃炎や胃かいように対する臨床検査の結果、タウリンは著しく胃の炎症を抑制することがわかりました。