2007年5月8日
静岡県立大食品栄養科学部教授 横越 英彦
長寿の根拠を求めて(4) 魚介類、なるべく丸ごとで
静岡県は温暖で風光明美であるだけでなく、全国でも有数の水産業の盛んな土地でもある。入り組んだ岩場からなる伊豆半島、深海性の駿河湾、砂場の遠州灘、そして海水と淡水が混じり合っている浜名湖というように特徴のある海域である。そして、それぞれの海域、すなわち、沿岸、近海、沖合、さらには遠洋において、特徴のある豊富な魚介類が水揚げされている。
沿岸海域では、シラス、桜エビ、ヒラメや伊勢エビが捕れ、近海ではキンメダイが、沖合から遠洋にかけては、イワシ、アジ、サバ、カツオ、マグロなどが漁獲される。深海では高足ガニも捕れる。静岡県は、カツオの水揚げ量が日本一であるだけでなく、遠洋からのマグロの水揚げも多い。また、浜名湖ではウナギだけでなくアサリ、カキ、ノリの養殖も行われている。
これらの水産資源は、そのまま食卓に出すシラスや桜エビのほか、特徴のある水産食品が市販されている。静岡県は長寿県とも言われるが、この長寿と豊富な水産資源とは関係があるのではないだろうか。
魚料理は最近、あらかじめ骨と皮を取り除いた切り身を用いることが多い。しかし、刺し身や切り身だけの利用は、栄養学の面からみて納得がいかない。多くの食材は、一粒三神、百菜百神といわれるように、多くの栄養素や機能性のある食品成分を含んでいるからだ。
例えば、魚の皮やエビやカニの甲羅には、コラーゲンやキチン・キトサンが豊富に含まれている。小魚の頭や骨には、カルシウムなどのミネラルだけでなくタンパク質も含まれている。マグロやカツオの血合い肉は、捨てられることも多いが、これも立派な魚肉である。ヘム鉄やタウリンを豊富に含み、また、その他の有効成分も多く、骨粗しょう症などの予防のためにも食べてほしい。
すなわち、魚介類は、なるべく、全体を利用する「丸ごとの栄養学」が大切である。その点、シラスや桜エビは生か乾燥してそのまま食べるし、カツオやサバの節製品、沼津の干物、そして焼津の黒はんぺんなどは、丸ごとを利用している。私は、他県からの訪問客と食事をするときには、必ず、生シラス、桜エビのかき揚げ、黒はんぺん、ナガラミをメニューにのせる。黒はんぺんは、はじめ驚くが、味は良いという評価をえている。味だけでなく、健康にも良いので、静岡県民は多いに食べていただきたい。