2007年6月5日
静岡県立大学食品栄養科学部教授 鈴木 裕一
長寿の根拠を求めて(6) 高血圧と脳卒中 食塩との付き合い方知ろう
食塩を過剰に摂取すると血圧が上がり、脳血管疾患(脳卒中)になる。脳卒中を防ぐために食塩摂取を少なくすべきであるということは、多くの人が知っていることである。しかし、食塩摂取をどの程度減らすのが良いのかに関しては実は専門家の間でもなかなか議論のあるところなのである。
第2次世界大戦後、日本人の死因は大きく変わってきた。特に大きく低下したのが脳卒中である(図)。医学の進歩により、脳卒中になってもすぐ死亡することがなくなったことが大きいが、血圧も戦後一貫して下がり続けている。さらに、生活習慣、特に食生活が戦後から1975年ごろにかけて改善されたこともかかわっていると考えられている。この間食塩摂取量も低下した。それでも脳卒中はまだまだ多く発症し、死亡まで至らなくても社会的に大きな損失をもたらしている。
食塩は生物、特に動物にとって必要不可欠な栄養である。われわれの体の一部分は0・9%の食塩水であり、それが一定量ないと細胞の機能が障害され、血液の流れも悪くなり生きていけない。この大切な食塩を保持するメカニズムが体にあるため、現在平均的な人がとっている食塩量の10分の1程度でも十分生きていくことができる。
一方、食塩を多く取ると体の中の食塩水量が増え、その一部である血液量も増えるので血圧が上がる。しかし体にはその余分な食塩をスムーズに尿中に出してしまうメカニズムもある。そのため人によっては食塩を多くとっても血圧が上がらない人がいるし、上がる人の場合も、その程度は比較的わずかである。
適度に食塩を含む食品はおいしい。私も朝の一杯のみそ汁で今日もがんばろうという気持ちになる。黒はんぺんにも少ししょうゆをかける。私は病気をして、一時期食塩の少ない食事をしなければならない羽目になったことがある。今でも思い出すと体全体が拒否反応を引き起こす。多分それは必要な食塩をわれわれに摂取させるための巧妙な仕掛けであろう。
食塩を多く取るとすぐ高血圧になるわけではない。実は高血圧の大部分は原因が不明で、食塩摂取のみで決まるものではないと考えられている。塩分はこころもち控えめに、しかしおいしく食べることにはこだわる、というあたりが妥当な対応と思われる。
魅惑的な食べ物である浜納豆や琵琶湖のふなずしなどは、きわめて高濃度の食塩を含んでいる。このように高濃度の食塩を含む食品は胃や腸に悪い。だがこれも少しずつ食べるか、お茶漬けにするなどして薄めて食べれば十分楽しむことができる。食塩との付き合い方を知り、楽しい食生活と健康長寿の両立を目指すべきである。