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2007年10月23日

静岡県立大学食品栄養科学部教授 加治 和彦

長寿の根拠を求めて(14) 長寿の限界は天寿まで

長寿の限界は天寿まで

ヒトの寿命を制御するものは、遺伝子かそれとも環境要因か。世界の果ての桃源郷では、数百歳とまでは言わなくても150とも170歳ともの元気な老人が、民族衣装を装って楽しく暮らしている?本当であろうか?そこではどのように澄んだ空気、水、食べ物が供給されているのであろうか?現実には、世界の最長寿国は意外にも日本国であった。

図は現代とそれより250年前のヒトの生存曲線である。このグラフからヒトの最長寿命はいずれも100歳強で、250年間変化していないことがわかる。最長寿命が時代を隔てても変わりがないことは、それが先天的に、つまり遺伝的に決定されていることを強く示唆する(天寿)。

それに対して平均寿命は、現代に近づくに連れ、生存曲線が右に膨らむようにして延びてくる(図中、右上に向かう矢印)。今後さらに種々の環境要因が改善されたとき、理想の生存曲線は、すなわち生まれたヒトすべてが天寿を全うすることを示す曲線となる。この理想生存曲線と、現実の生存曲線に囲まれた部分が、寿命に及ぼす環境要因の関与である。

このように最長寿命(天寿)は遺伝子が、平均寿命は環境要因が主に制御している。このグラフはまた、この理想が実現しても老人があふれることにはならないことも示している。日本の超高齢社会は人類が歩んできた理想社会の達成として積極的に評価すべきである。

長寿県だった沖縄の特に男子の平均寿命が近年短くなり一位の座を明け渡した。その主な原因は生活習慣、特に西欧型の食習慣であるようである。このように環境因子の中で寿命を左右しているものとして食物が特に重要である。

さまざまな実験動物を異なった食餌条件で飼育した結果、カロリーを制限することにより平均寿命が延長することが分かった。必要栄養素は確保しつつ必要以上のカロリーの摂取を控えるのである。ラットを30%カロリーカットで飼育すると15-30%寿命が延びるのである。アカゲザルでも同様な傾向がみられた(このサルの寿命は30-40年であるので、最終結果がまだ出ていない)。

必要栄養素を確保しつつ摂取カロリーを控えめにすることは健康・長寿を得る王道である。その基準は脂肪の過剰な蓄積のない自分の20代前半の体重が目安となる。

肥満が国の存亡の事態となっている米国では、新たな取り組みが始まっている。カロリー制限はしなくても、それと同じ効果をもたらす食物成分はないであろうか。それが科学的に探索され、最近有力な物質が見いだされた。今は実験動物でその有効性と副作用を検討中なので、ここではその物質名は明らかにしないが、ネットで検索すればその動向が分かるであろう。目が離せない取り組みである。

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