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2007年11月6日

静岡県立大学大学院生活健康科学研究科教授・研究科長 小林 裕和

長寿の根拠を求めて(15) 研究進む遺伝子組み換え植物

研究進む遺伝子組み換え植物

昨今、食の安心・安全を疑わせるニュースが多過ぎる。人類の食糧源および日常的に摂取する機能性成分の多くは、植物由来である。人の健康や長寿に役立つ農作物を作出する技術を人類は既に手にしていると言えるが(後述)、これが「安心」かどうかは、次元の異なる問題である。

人類は元来、警戒心が強く、新しい技術に対しては、いったん忌避行動を示す。例えば、江戸時代の末期に、西洋から輸入された写真の技術がそれである。人々は、撮影により命が吸い取られるのではないかと恐れた。

研究者の立場から見ても、「遺伝子組み換え」農作物は、その登場が唐突であった。日本には1996年に、まずは7品目の遺伝子組み換え農作物の輸入が承認された。しかしながら、「遺伝子組み換え」という言葉が持つ不気味さが一因、さらに、遺伝子組み換え農作物の利点が消費者に見え難いが故に、いまだに遺伝子組み換え農作物は消費者に歓迎されていない。

これまでの遺伝子組み換え農作物は、除草剤耐性と害虫抵抗性が代表的なものであり、これらは生産者には歓迎されるが、消費者にはその利点が見えない。これは第一世代の遺伝子組み換え農作物と呼ばれる。

一方、人の健康や長寿に対して積極的に役立つ農作物であれば、世の中の反応も異なるであろう。第一には、より安全な植物遺伝子組み換え技術、第二は、より付加価値の高い植物の作出という観点から、筆者らの研究を紹介する。

すべての生物の生命の設計図は遺伝情報としてDNAと呼ばれる物質に保存され、それは子孫に受け継がれる。このDNAを操作することにより、植物や動物の性質を変えることが可能になる。これを「遺伝子操作」、そしてでき上がったものを「遺伝子組み換え」生物あるいは食品という。

遺伝子組み換え操作には、遺伝子組み換え体を選抜するために、選抜遺伝子(選択マーカー遺伝子)が不可欠である。選抜遺伝子としては、抗生物質耐性遺伝子や除草剤耐性遺伝子が使われるが、とりわけ抗生物質耐性遺伝子は、薬剤耐性菌の出現につながる危険性もあり歓迎されない。これを本来食に供している植物から提供することとした。

さらに、田畑での栽培においては、遺伝子組み換え農作物からの花粉を介した外来遺伝子の飛散が懸念される。植物の細胞には、通常、花粉に入らないDNAがあるため(葉緑体DNA)、これを用いれば、花粉を介した「遺伝子汚染」の可能性が回避できる。遺伝子解析が最も進んだ植物であるシロイヌナズナの研究成果を活用し、筆者らは、これらの条件を満足する新規選抜遺伝子を開発している。

食品機能性成分として、茶のカテキンやぶどう酒のポリフェノールなどは、抗がん、抗酸化効果などを有する。これら一群の成分は、フラボノイド類と呼ばれ、さらに抗アレルギー、抗炎症作用、ダイエット効果なども期待される(図)。上記の安全な選抜遺伝子を用い、これらの成分を高蓄積するようになった植物を作出した。もちろん、厚生労働省の安全評価を満たした上で、市場に出回ることになる。

一方、生まれたばかりの赤ん坊は、外から来る病原菌に対して、自分自身での免疫系は完成していないが、母乳を介して、母親から免疫成分(抗体、免疫グロブリンA)を受け取る。経口摂取の安全性を保証して、レタスやキャベツなどの野菜に、免疫成分を生産させるために、上述の選抜遺伝子を活用している(図)。この種の野菜は、免疫系が弱った病人や高齢者に対して、疾病予防としてその有用性は極めて高い。筆者らは、本学の薬学部と共同でこの研究を進展している。

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