2008年1月29日
静岡県立大大学院生活健康科学研究科教授 酒井 坦
長寿の根拠を求めて(19) 酵素から甘味料やオリゴ糖
私たちは毎日食事をして、食べ物を体の中に取り込んでいる。食べたものを消化して吸収しやすいものに変えるのが消化酵素で、例えばでんぷんを糖にまで分解するアミラーゼやタンパク質をアミノ酸まで分解するプロテアーゼなどが知られている。
酵素は非常に強力で、朝、食事をしても昼ごろには食べたものはほとんど消化されて、おなかがすいてくる。しかし、食べ残したご飯は1日たってもほとんどかわらない。
一見変化しないような私たちの体は一方で絶えず分解されるとともに、新しく食べたものによって作られている。私たちの体を作ったり壊したりするのにも酵素が働いている。
私たちが食べるものは野菜でも肉でももともとは生き物なのでこのような酵素をたくさん持っている。生き物が死ぬとこれらの酵素は勝手に働きだし、組織を壊したり、成分を分解したりする。例えば、肉は店頭に並ぶまでに数日間熟成させる。この間に分解酵素が働いて柔らかくなるとともに、アミノ酸など呈味物質ができておいしくなる。野菜を長くおいておくと軟化したり、レタスやりんごの切り口が赤くなったりするのも酵素の働きによるものである。微生物もこのような酵素をたくさん作る。それを利用したのが、お酒やみそなどの発酵食品で日本では伝統的にたくさん知られている。
酵素をとりだして利用することも行われている。洗剤の中には汚れのもととなるさまざまな物質の分解酵素が配合されているのはよく知られているが、清涼飲料水などの甘味料がジャガイモやトウモロコシのでんぷんから酵素を用いて作られていることはご存じだろうか? 日本で生産されるでんぷんの約4割は酵素によって分解されて、水あめやシロップなどの甘味料になっている。
酵素を利用すると、それまで知られていなかった新しい物を作ることができる。虫歯になりにくい甘味料や、ビフィジス菌が好み、おなかの調子を良くするオリゴ糖などが酵素を利用して作られるようになっている。
いろいろと役立つ酵素であるが欠点もある。酵素はタンパク質でできているので不安定で熱に弱い。また、酵素は一つのことしかできないので、別の物を作るには別の酵素を探さなければならない。酵素タンパク質はDNA上の遺伝情報によって作られるので、この遺伝情報を書き換えてしまうと酵素タンパク質を作りかえることができる。この方法を用いて、酵素の欠点を改善して安定性を高めたり、新しい反応を行わせるという研究が行われている。私たちもみかん由来の香成分を作る酵素を作りかえて別の香物質をつくるようにする研究を行っている。