2006年7月25日
静岡県立大学 食品栄養科学部教授 横越 英彦
タウリン(5) 糖尿病合併症 抑制に効果
体内の臓器はすべて重要な役割を分担しているが、肝臓と同じく大切な臓器に膵臓(すいぞう)がある。膵臓は卵2個分(100グラムほど)ぐらいの重さの小さな臓器だが、そこから分泌される膵液中には、タンパク質、脂肪、炭水化物などの栄養素の消化酵素が多く含まれている。また、膵臓に存在するランゲルハンス島と呼ばれる部分のベータ細胞からは、炭水化物などの利用に重要な役割を果たすインスリンが分泌される。このインスリンとかかわりの深い疾患に糖尿病がある。
生活習慣病の中で最も良く知られている疾患の1つが糖尿病である。タウリンと糖尿病との関連については明確ではない点もあるが、主に、2つの点から関連性が示されている。その1つは、高血糖およびインスリン分泌に対する作用であり、もう1つは糖尿病に起因する合併症に対する作用である。
まず、インスリン分泌に対する影響だが、インスリン分泌臓器である膵臓にもタウリンが豊富に含まれている。糖尿病患者の血液、及び、血小板のタウリン含量は正常者と比較して70%ほどと少ないことが報告されている。すなわち、血小板からのタウリン流出が増加し、タウリンの流入は低下している。
また、ラットにストレプトゾトシンという薬剤を投与するとインスリンを生産する膵臓のベータ細胞が破壊されることによりインスリン分泌が減少し(1型糖尿病モデル動物)、糖尿病が誘発される。このモデル動物実験で、タウリンを投与すると、高血糖は顕著に低下し、血中インスリン濃度も上昇するなどの回復効果が観察される。
これは、タウリンにより、膵臓のベータ細胞が保護されたために(細胞膜を安定化させる)、インスリン分泌の低下が抑制されたと思われる。また、この時に観察される心臓の心筋障害もタウリンにより軽減される。
一方、糖尿病の合併症としては、網膜症、神経障害、動脈硬化症などが知られている。先に示したように、タウリンには血中コレステロールや中性脂肪の低下作用のあることから、これらに起因する合併症を軽減する可能性が示唆されている。
また、動物実験で糖尿病の二次的疾患として見られた網膜症や白内障の発症が、タウリンにより抑制される。タウリンを投与すると血小板凝集を抑制することにより、合併症の進行を抑える効果のあることも分かっている。
「(1型糖尿病モデル動物)」の「1」はローマ数字の1です