2006年8月8日
静岡県立大学 食品栄養科学部教授 横越 英彦
タウリン(6) ストレス軽減、脂肪燃焼に効果
高ストレス社会の中で、ストレスに起因する各種生活習慣病の増加が社会問題となっている。このストレス状態は、社会人のみならず幼稚園児や小中高生など、すべての年代に重くのしかかっている。ストレスには身体的(肉体的)なものと精神的なものとがあるが、どのようにしてストレスを解消するかが大切である。友達との会話、音楽やスポーツ鑑賞、お酒を飲むことも一つの方法である。
一方、栄養学的には、何かを食べることにより、ストレスの解消ができないかが注目される。まず、ストレス反応は生体の防御システムの一つであり、それを極端に抑制してしまうのは、逆に良くないことかもしれない。しかし、ストレス状態が長く持続することによる障害に対しては、ダメージを少なくする必要がある。
例えば、急性のストレスが加わったときには、脈拍が速くなり血圧が上がるが、これも全身に血液を送り込む必要からと思われる。この血圧の上昇には、カテコールアミンが関与している。しかし、この状態は正常ではないため、長く続くと障害が出てくる。
タウリンは、このカテコールアミンの放出を抑制し、ストレスによるダメージを軽減する作用が知られている。実験的には、ラットに寒冷ストレスを与え、あるいはストレス感受性の高い高血圧自然発症ラットを用いて、ストレス負荷とタウリンとの関連を調べた結果、血中カテコールアミンの変化や血行動態などのストレス性障害がタウリンにより軽減された。
運動も過度になればストレスの原因になるが、ここでは、運動時のエネルギー代謝に対するタウリンの影響を取り上げる。
筋肉は体重の4割強を占める大きな組織であり、それ故、全体としてタウリン含量も多く、全身の約7割を占める。運動時は筋肉のエネルギー代謝が重要であり、急激な運動と持続的運動とではエネルギー源が異なる。短距離走のような瞬発的な運動に利用されるのは筋肉グリコーゲンに由来するグルコースであり(グリコーゲン燃焼型)、一方、マラソンのような持久運動には脂肪が主に利用される(脂肪燃焼型)。
タウリンとエネルギー代謝に関する動物実験やヒトのランニング試験の結果、タウリンは、持久運動、すなわち脂肪燃焼型運動時に働いていることが明らかになった。すなわち、タウリンは持続的なエネルギー供給のために脂肪の分解を促進し、脂肪量を減少させる。そこで、タウリンはダイエット食に利用されるかもしれない。また、運動による血圧や心拍数の上昇が、タウリンの投与によって改善された。