研究内容
安全・安定な食に貢献する高分子材料の合成
1.食品廃棄物を利用した機能性高分子材料の合成
食物成分の主成分であるリグニンを原料として, グラフェンの合成に成功しています。本研究では, 食品廃棄物の有効利用を目的として, リグニン由来グラフェン存在下で重合を行い,ナノレベルでグラフェンが分散した高分子材料を合成しています。合成した高分子は、 高い成形加工性・溶解性・導電性を有した機能性材料としての応用が期待出来ます。
2. 簡便かつ高効率でレアメタルを捕集するポリマーの開発
私たちは, 効率良くレアメタルを捕集できる高分子材料を開発し, 資源・エネルギーの循環型社会の構築を通して安定な食を提供します。レアメタルは貴金属である一方, 毒性のある金属でもあります。これらを効率良く回収して安全な食を提供することを目的としています。
1)高回収でレアメタルを捕集する高分子材料の開発 レアメタルは我が国のハイテク産業に欠かさない一方、地球上の存在量が少ないため高価格で取り引きされています。当研究室では、金属を吸着するユニット(硫黄原子)と水に溶解するユニットを持つポリマーを合成し、レアメタル吸着挙動を検討しました。ポリマーは金属イオン水溶液に溶解するため効率良く金属を吸着でき、吸着量増加に伴う沈殿により、ろ過操作により簡便に分離できることを見出しました。例えば、パラジウムの回収では、ポリマー1gあたり0.508 g捕集できる世界最高の捕集能を示します(これまでの最高値は0.352 g)。この成果は、平成30年度リサイクル技術開発本多賞を受賞し、日本経済新聞に掲載されました。
2)使用済みリチウムイオン2次電池のレアメタルの選択的回収
世界で普及が拡大している電気自動車のバッテリーであるリチウムイオン二次電池を構成しているCo・Mn・Niはレアメタルであり、今後の需要拡大の増加に伴い価格の上昇や供給不足が懸念されています。リチウムイオン二次電池に使用されるレアメタルの量は莫大であり有効な都市鉱山であるが、Co・Mn・Niは化学的・物理的性質が類似しているため、コストに見合う分離技術が確立されていません。さらに、EU(欧州委員会)ではリチウムイオン二次電池に使用するリサイクルしたレアメタルの量を規制したため(2030年はCo 12%, Ni 4%. 2035年はCo 20%, Ni 12%)、効率的分離法の開発は急務の課題です。当研究室では、これらレアメタルを効率良く回収するポリマーを合成し、電気自動車バッテリーの安定供給を通して、安定な食を提供することを目的としています。
3.有機-無機ハイブリッド材料の合成
レアメタルを捕集したポリマーから金属を分離する場合、ポリマー部を燃やすために環境負荷が高くなります。当研究室では、レアメタルを捕集したポリマーの新たな機能を見出すために、有機-無機ハイブリッド材料への応用を試みています。
金属配位ユニットと親水性ユニットを持つポリマーを合成し、PdイオンとAuイオンの自己集合架橋反応挙動を検討した結果、金属イオンによって異なる形状の金属架橋ゲルが生成することが見出されました(図3)。分光学的解析・速度論的解析により、この生成機構を解明しました。金イオンで架橋したゲルを顕微鏡観察したところ、金ナノ粒子が均一に分散したナノファイバーが生成していることが確認されました(図4)。