研究内容

精密高分子合成を基盤とした環境高分子材料の合成

1.新規重合反応の開発

 環境問題や人の健康に貢献する高分子材料を開発するには、新規かつユニークな重合反応の開発が必須となります。当研究室では、ユニット配列制御重合を検討しています。通常の重合反応では、赤、青、緑の化合物を重合すると、バラバラに結合したポリマーが生成してしまいます。当研究室では、赤-青-緑というようにユニット配列が制御された高分子を合成する手法を開発しています。ユニットが配列された高分子としてはDNAが代表的ですが、DNAに類似した機能を示す高分子材料の開発を目指して研究しています。

 

 当研究室では、新しいリビング重合の開発も検討しています。リビング重合とは、重合の反応点が生きている(リビング)重合のことを言います。これを利用すれば、従来の重合では成し得ない数々の特徴があり、モノマーと開始剤の比により、望みの分子量のポリマーを合成できるようになります。このようなリビング重合を利用すると様々な構造を持つポリマー(ブロック共重合体・グラフト共重合体・星形ポリマーなど)の合成が可能になります。

 これらの精密合成技術を基盤として、以下に示すような機能性高分子材料の開発を行っています。

2. 簡便かつ高効率でレアメタルを捕集するポリマーの開発

 レアメタルは我が国のハイテク産業に欠かさない一方、地球上の存在量が少ないため高価格で取り引きされています。当研究室では、金属を吸着するユニット(硫黄原子)と水に溶解するユニットを持つポリマーを合成し、レアメタル吸着挙動を検討しました。ポリマーは金属イオン水溶液に溶解するため効率良く金属を吸着でき、吸着量増加に伴う沈殿により、ろ過操作により簡便に分離できることを見出しました(図2)。例えば、パラジウムの回収では、ポリマー1gあたり0.508 g捕集できる世界最高の捕集能を示します(これまでの最高値は0.352 g)。この成果は、平成30年度リサイクル技術開発本多賞を受賞し、と日本経済新聞に掲載されました。

3.有機-無機ハイブリッド材料の合成

 レアメタルを捕集したポリマーから金属を分離する場合、ポリマー部を燃やすために環境負荷が高くなります。当研究室では、レアメタルを捕集したポリマーの新たな機能を見出すために、有機-無機ハイブリッド材料への応用を試みています。
 金属配位ユニットと親水性ユニットを持つポリマーを合成し、PdイオンとAuイオンの自己集合架橋反応挙動を検討した結果、金属イオンによって異なる形状の金属架橋ゲルが生成することが見出されました(図3)。分光学的解析・速度論的解析により、この生成機構を解明しました。金イオンで架橋したゲルを顕微鏡観察したところ、金ナノ粒子が均一に分散したナノファイバーが生成していることが確認されました(図4)。

 さらに、上記のポリマーの水溶液にPdイオンの水溶液を加えると、水溶液間で錯形成反応が進行し、厚みがナノメートルオーダーのナノシートが合成できることを見出しました。このナノシートは高活性な有機反応触媒として機能し、炭素-炭素結合カップリング反応(Heck反応)において、Pdイオンひとつあたり3,000,000以上の生成物を与える世界最高の触媒活性を示しました(図5)。