トップページ > メンバー

研究内容

消化管の生理機能を分子機能から考える ― 栄養素・電解質吸収機構の分子基盤の解明 ―

 健康な身体を維持するためには、摂取した栄養素・電解質は生体内に効率的に取り込まれる必要があります。この機能に関しては、消化管に存在する輸送体や、その関連タンパク質が協同して働くことにより担われています。本研究室では、それら個々の分子の機能から消化管、更に生体全体の生理機能を明らかにすることを目指しています。その為に、分子生物学的研究、動物より摘出した組織レベルでの研究、遺伝子改変動物を用いた動物個体レベルでの研究を行っています。また解析手法は、細胞生物学的手法、電気生理学的手法、蛍光イメージングなど様々な方法を取り入れています。本研究室では主体性を重んじ、研究をすることで、新たな発見を通して、科学をすることの楽しさを共感できたら良いと考えています。



1. 上部小腸エネルギー感知システムの生理学的意義の解明

 小腸は、どの部位でも栄養素吸収機能を有していると考えられているが、その実験的な証拠は示されていない。上部小腸の栄養素吸収機構は、下部小腸と異なり、摂食時には働いておらず、絶食時のみに機能していることを見出している。この生理学的意義としては、上部小腸は、生体内のエネルギー状態を感知し、必要な時に働く部位であることが考えられる。この研究では、上部小腸のエネルギー感知スイッチ機構の生理的意義並び、その分子機序の解明を目指している。


2. 消化管バリア機構の検討

 消化管上皮は、生体に必要な栄養素を選択的に吸収すると同時に、外環境からの異物ならびに細菌等の侵入を防ぐためのバリア機能を有する。バリア機能の維持には細胞間のタイト結合が重要な役割を果たしている。二細胞間タイト結合部の主要な構成タンパク質はクローディンファミリーであり、ジッパー様の構造で細胞間を塞いでいる。一方、上皮細胞が3つ集まる三細胞結合部では異なる構造が観察されている。近年、三細胞タイト結合部の構成タンパク質として、トリセルリンやアンギュリンファミリーが同定されている。そこで、アンギュリンまたはクロージンを欠損させたマウスを用いて、各タンパク質のバリア機能における役割や栄養素吸収に及ぼす影響を検討している。



3. 小腸オルガノイド由来単層上皮機能測定系の確立

 小腸の吸収・分泌機能をin vitroで評価するために、小腸のモデル細胞株であるCaco-2細胞の単層培養系や動物個体から摘出した標本が使われてきた。しかし、Caco-2は大腸由来であること、摘出小腸では絨毛の立体的な構造のため、吸収機能のみの定量的な測定などは困難であった。近年、単離培養した腸幹細胞を用い、生体内の腸組織に似た「小腸オルガノイド」の培養技術が開発された。小腸オルガノイドは、管腔を内面に向けた球状の構造体であり、測定すべき栄養素などを投与することができない。このため小腸オルガノイドの単層培養法を確立し、栄養素吸収機能評価系を確立することを目指している。