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食品栄養科学部の最先端研究

遺伝子に眠る生命の記憶を呼び覚まし、未来型蛋白質工学技術を創造する
食品生命科学科 食品蛋白質工学研究室
伊藤 創平 准教授・中野 祥吾 助教

38億年の進化は、2000万種の多様な生命を地球に生みだしました。生命の設計図である遺伝子には、この進化の記憶と多様性が、単純な文字列として刻まれています。遺伝子であれば塩基配列4文字、遺伝子から作られる蛋白質であればアミノ酸配列20文字です。BLASTやClustalWなど、遺伝子やアミノ酸配列の解析法は、世界で最も引用された近代の論文 注1)として多数ランクインしており、配列を解読することの重要性が伺えます。しかし、文字列に刻まれた意味を解読するのはとても難しいのです。わずか10個のアミノ酸が繋がった蛋白質でも可能な組み合わせは、なんと2010 = 10兆通りもあります。遺伝子・蛋白質の無限ともいえる多様性が、人類に自在に利用されることを拒んできました。例えば、目的の機能を持った上で、産業利用に耐えうる生産性、安定性などにも優れた遺伝子は極めてまれであり、膨大な数の生物から探索する必要がありました。

一方で、最先端技術により遺伝子・アミノ酸配列などのビッグデータが生みだされています。私たちの研究室では、世界に先駆け、ビックデータに対応したはじめてのアンサンブル機械学習型配列解析法(AI技術の一つ)を開発、応用研究を展開 注2)しています。言葉をかえると、ビックデータに眠る生命の多様性を俯瞰し、多彩な能力を引き出し再構築するプログラム・未来型の蛋白質工学技術の社会実装を行っています。人間の目ではなくコンピュータの目で解読する、いわば配列翻訳プログラムのようなものです。次世代蛋白質工学技術の有用性は、元気な学生と、多くの企業や大学との共同研究にて実証中です。難しく聞こえるかもしれませんが、プログラムの操作は簡単です。一緒に楽しく勉強・研究してみませんか?

蛋白質・酵素研究の魅力とは?

食品生命科学科という名前は、人間がいのち(生命)を食している事に由来します。世界には美味しい食べ物がたくさんありますが、遺伝子から作られた機能性分子である酵素により作られている事にお気づきでしょうか? つまり酵素は、食品を構成する糖質・脂質・蛋白質のみならず生命維持に必要な代謝産物に作用することができ、食品素材の美味しさや機能性の改良に役立っています。
蛋白質・酵素の研究の魅力は、食品のみならず様々な分野での応用が可能であり、環境負荷も少なく持続可能な社会を実現しうる技術であることです。バイオ燃料、希少糖や希少アミノ酸の生合成、食品の改質に広く利用されているトランスグルタミナーゼなど、応用例は枚挙にいとまがありません。皆さんのアイデア次第で無限の可能性が広がります!

食品=生命を食している

研究成果の例: 希少アミノ酸・中分子医薬品の生合成に光明。50年来の難生産性酵素を攻略!

生命に普遍的に存在しているL-アミノ酸酸化酵素は、生体内ではL-アミノ酸からケト酸を生合成しています。産業利用の観点では、L-アミノ酸酸化酵素は、①基質特異性が広く、非天然型アミノ酸にも反応でき、合成が難しいケト酸を合成できる、②還元剤存在下において、希少なD-アミノ酸 注3)を高い光学純度でワンポット合成できる、といった特性が注目されてきました。また、副生成物として生じる過酸化水素・アンモニア 注4)の応用利用も可能であることから、希少アミノ酸、中分子医薬品 注5)、ファインケミカル、エネルギーなど、幅広い分野においての応用が長年期待されてきました。しかし、世界各地で探索された天然型L-アミノ酸酸化酵素は、いずれも難生産性で安価な調整が困難であり、産業利用が進んでいませんでした。

私たちは、海洋性微生物 注6)のゲノムデータベースから発見した新規アミン酸化酵素遺伝子群に対して、独自の蛋白質工学プログラムにて人工酵素を設計しました。設計された人工酵素は、①大腸菌で安価に生産が可能である、②13種類のL-アミノ酸、18種類の非天然型アミノ酸に反応する、③反応する非天然型のアミノ酸において、ラセミ体から光学純度99%以上の純度でD-アミノ酸誘導体に変換が可能である事を見いだし、アメリカ化学会の専門誌「ACS Catalysis」(インパクトファクター = 12.2)で発表、国内外で特許出願も果たしています 注7)

研究成果の概念図