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食品栄養科学部の最先端研究

「おいしい!」はつくれる。
食品生命科学科 食品化学研究室
伊藤 圭祐 准教授

人はなぜ食べるのでしょうか?やはり一番の理由は「おいしい!」からではないでしょうか?
おいしい食品を食べることは、過去、現在、そしておそらく未来永劫に渡り人類共通の望みと言っても過言ではありません。
「おいしい!」をつくる夢の技術は、2004年にノーベル賞を受賞した嗅覚の研究(Richard Axel博士、Linda Buck博士)を筆頭に世界中で研究が進められ、実はもうすぐ手の届くところまで来ています。


私たちの研究グループは、食品成分が口や鼻で感知される仕組み(ヒト味覚・嗅覚受容体)に着目し、化学の力で味と香りをコントロールする「おいしさの分子設計技術」を開発しています。例えば最近、タンパク質が“コク味”機能を持つことを発見し、この分野では、ほんの少しだけ世界をリードしています。また大豆を加工する際に発生する不快な青臭さを、たった1つの成分を加えるだけで爽やかな心地よい香りに変える技術の開発にも成功しました。これらは“コク味”豊かなチョコレートやカレー、スッキリした味わいの大豆加工食品など、いずれも「おいしい!」をつくるために役立ち、実際に食品企業と共同で商品化へ向けた応用研究も進めています。

タンパク質が“コク味”機能を持つことを発見

食品成分が口に入ると、舌にある味覚受容体へ作用し味を感じます。最近、日本の研究グループによって“コク味”の受容体が特定され、得体の知れない味?として捉えられてきた“コク”の一端が明らかとなりました。


“コク”はおいしさを左右する重要な味であるため、様々な食品成分について“コク味”受容体への作用が調べられてきましたが、私たちは世界に先駆け、鶏卵に含まれるタンパク質がコク味受容体を活性化させることを見出しました。従来の常識では“コク味”受容体を活性化できるのは分子量200-500程度の小さい成分だけだと考えられてきたため、分子量10,000を超えるタンパク質を発見した時には大変驚きました。


この発見は、これまで味への寄与が無いとされてきた食品中のタンパク質成分が実は“コク味”機能を持つことを意味し、食品の味の理解と設計に新しいコンセプトを提案するものです。高分子の鶏卵タンパク質がどのようにして“コク味”受容体を活性化させるのかはまだ分かっていませんが、味の仕組みを解き明かし、そして“コク味”豊かな食品の開発へ繋げるため、学生たちと一緒に日夜研究を進めています。

大豆の“青臭さ”を心地よい香りに変える新技術を開発

世界的な人口増大、新興国の経済発展などに伴い、2030年には肉類などの動物性タンパク質の供給量が足りなくなる「タンパク質危機」が起きると予測されています(SDGs×食品産業:農林水産省HP)。
その打開策として期待されているのが、環境負荷の少ない大豆などの植物性タンパク質を原料とする“フェイクミート”です。皆さんもカップラーメンに入っている「謎肉」などとして食べたことがあるかもしれません。
世界的な健康志向も追い風となり、大豆加工食品の消費量は年々増えていますが、実は大豆は加工プロセスで不快な青臭さのある成分(n-hexanal)が発生しやすいことが課題となっています。


「おいしい!」大豆加工食品をつくるには、青臭さを解決する技術の開発が不可欠です。私たちはヒトが匂いを感じる仕組みに着目し、鼻でn-hexanalの感知を担っている嗅覚受容体を特定することに成功しました。さらに、ハーブなどに含まれる香り成分がこの受容体の働きを抑え、n-hexanalと同時に嗅ぐことで、青臭さが消えて爽やかな心地よい香りになることも見出しました。
本成果は科学的根拠に基づいて食品の匂いを制御する新技術です。また現在は、香り感知の仕組みを応用した新たな機能性食品の開発研究にも着手しています。