研究概要:食品産業での応用を見据えた”味と香り”の分子生命科学

 

厚生労働省やJETROの調査により、ヒトが最も重視する食品の価値はおいしさであることが明らかとなっています。“味と香り”の感知に関わる味覚・嗅覚受容体が特定され、それらへの食品成分の作用を調べることで、これまで曖昧に捉えられてきたおいしさの「感覚」は「分子」として研究できるようになりました。2004年にノーベル賞を受賞した嗅覚研究を筆頭に、おいしさの分子生命科学は急速に進展しており、食品開発への味覚・嗅覚研究の応用が期待されています。

 

味覚・嗅覚受容体は食品のおいしさの感知に重要ですが、さらに近年では、口や鼻以外に発現する味覚・嗅覚受容体が様々な生体調節機能にも関わることが明らかとなってきています。そのように”味と香り”の研究は機能性食品、医薬品、化粧品とも繋がる新たな変革期を迎えています。

 

当研究室は、食品産業での応用を見据えた”味と香り”の分子生命科学志向しており、取り組んでいるテーマはおいしさの分子設計技術の開発」「味・香りを活用する新しい機能性食品の開発」の2つに大別されます。

 

学部HPで研究内容が紹介されました!

食品栄養科学部の最先端研究

 

共同研究
 当研究室では甘味、苦味、コク味、辛味、刺激味、清涼感、香りや臭いなどの感知に関わる多くのヒト化学感覚受容体(400種類以上)の応答評価システムを有しています。このような大多数のフレーバー関連受容体を解析できる大学研究室は世界的に見てもほとんどありません。各種フレーバー素材の科学的評価や新機能素材の開発、また要望に応じた新規受容体の応答評価システムの構築など、共同研究のご相談は随時受け付けています。お気軽にお問い合わせください。

 

「おいしさの分子設計技術」の開発



食品開発において、おいしさの設計は非常に重要かつ難しい課題です。お菓子や酒などの嗜好食品はもちろん、トクホや機能性表示食品のような健康効果を目的とする食品であっても、食べ続けるためにはおいしさが求められます。
 
おいしさを設計するために、多くの食品企業ではヒトの感覚を頼りに味や香りを評価していますが、この官能評価は個人差などの問題があるため、どうしても曖昧さが残ります。そこで当研究室では、”味と香り”の感知に関わる味覚・嗅覚受容体の応答評価システムを開発することで、様々な食品成分の感覚機能を解析しています。分子レベルでの受容体応答を調べることで、官能評価では難しい「正確性」、「客観性」、「迅速・簡便性」に優れた評価が可能です。
 
一連の研究は未だ不明な”味と香り”が生じる分子メカニズムの解明に貢献するだけでなく、新規フレーバー成分の探索や創製、苦味マスキング剤の開発、後味の良い低カロリー甘味料の開発、香りプロファイリング技術の開発など、様々な技術開発を通じてテーラーメイドな「おいしさの分子設計技術」に繋がります。
 
 
最近の成果(学会での受賞など)

・香りのプロファイリング技術として応用可能な受容体解析法の開発に成功しました。
※第66回日本食品科学工学会大会優秀賞受賞
※第19回静岡ライフサイエンスシンポジウム優秀賞(1位)受賞
・「大豆の青臭さ」の感知に関わるヒト嗅覚受容体を特定しました。
※2019年度日本食品科学工学会中部支部大会優秀賞(1位)受賞
・混合物である食品の辛味を高感度に測定(数値化)できる新しい方法論を開発しました。
・ペプチドアレイと培養細胞を組み合わせた新しい苦味マスキング技術を開発しました。
※2016年度日本農芸化学会大会トピックス賞受賞
※The 20th SFHL Poster Award
・無味と考えられてきたタンパク質が”コク味”機能をもつことを発見し、また新たな高機能”コク味”成分を創製しました。
※第66回日本食品科学工学会大会企業賞受賞
※第65回日本食品科学工学会大会優秀賞受賞
※2017年度日本食品科学工学会中部支部大会優秀賞受賞
※2020年度日本農芸化学会大会トピックス賞選定
・酵母における香り成分の生成を増強する方法を開発しました。
※2018年度日本農芸化学会大会トピックス賞受賞
※第69回日本生物工学会大会トピックス賞受賞
※2017年度日本食品科学工学会中部支部大会優秀賞受賞
・香酸柑橘の香り成分による清涼感(冷感刺激)のメカニズムを明らかにしました。
・緑茶や抹茶の甘味が、実は甘味受容体を介して生じる感覚ではないことを明らかとしました。

 

味・香りを活用する新しい機能性食品の開発



 
健康寿命伸延や医療費抑制が喫緊の課題となる中、食品成分の生体調節機能(健康効果)が注目されています。そのような背景において近年、味蕾や嗅上皮だけでなく皮膚や消化管、筋肉等の非感覚組織においても味覚・嗅覚受容体が発現し、抗2型糖尿病、抗肥満、皮膚バリア機能向上等の機能を担うことが明らかとなってきました。
 
味覚・嗅覚受容体は、市販薬の約半数が標的とするGタンパク質共役型受容体や、エネルギー消費などに関わるイオンチャネルの仲間です。そのように、味覚・嗅覚受容体の研究はフレーバー領域だけにとどまらず、新規メカニズムで作用する機能性食品、医薬品、化粧品の開発にもつながることが期待できます。当研究室ではこれら非感覚組織に発現する味覚・嗅覚受容体に着目し、“身体が感じる味と香り”をコンセプトとする新しい食品機能研究を進めています。
 
 
最近の成果(学会での受賞など)

・鼻以外の2つの組織に嗅覚受容体が機能的に発現していることを見出しました。
※富士山麓A&S2019最優秀賞受賞
・ペプチドアレイを応用した食物アレルゲン検査用抗体開発法を確立しました。
・抗2型糖尿病効果の期待できるジペプチドを網羅的に解析しました。
※2015年度日本農芸化学会大会トピックス賞受賞
・他の機能性成分の効果を増強する新しいタイプの機能性ペプチドを発見しました。
※2015年度日本農芸化学会大会トピックス賞受賞
・栄養ペプチドの生体吸収に関わるペプチド輸送体の基質多選択性を明らかとしました。

 

【問い合わせ先】
主任教員:伊藤圭祐(准教授)
E-mail: sukeito(ここに@を入れてください)u-shizuoka-ken.ac.jp
アクセス:静岡市駿河区谷田52-1 静岡県立大学食品栄養科学部棟4階 5403室(食品化学研究室)