微生物の力でレアメタルをリサイクル!

准教授 谷 幸則 (Assoc. Prof. Yukinori Tani)
環境微生物学研究室

目次

  1. レアメタルとは?
  2. レアメタルはどんなところで使われているの?
  3. 日本国内のレアメタル事情
  4. レアメタルリサイクルは進んでいるの?
  5. レアメタルが環境に及ぼす影響は?
  6. 微生物の力でレアメタルリサイクル
  7. マンガン酸化微生物によるレアメタル回収の一例
  8. おわりに
  9. 引用文献

1. レアメタルとは?

レアメタル (rare metal) は、日本語に直訳すると、「希少な金属」になります。金や白金などを一般的には貴金属といいますが、それとは少し異なります。現在、経済産業省でレアメタルと定義しているのは、31種の金属類で、これを細かくわけると47種類になります。これらは、地球上に量的に少ない金属もありますし、量は豊富にあっても、それを金属として得ることが困難である場合もあります。基本としては、「何らかの理由で入手が困難な金属」と定義することが一般的です。供給と需要によって国際価格が大きく増減します。

レアメタルの枯渇

2. レアメタルはどんなところで使われているの?

上記で述べた47種類のレアメタルは、それぞれに産出される国が異なっていること、また、限られた産出国にその資源が偏って存在していることが特徴として挙げられます。例えば、ニオブというレアメタルは、ブラジル一国だけで、世界生産量の90%以上を産出しています。ニオブは、医療器具のCTスキャナーの重要な部品に必要不可欠なレアメタルで、もし、ニオブの生産が停止してしまうと、世界中でこの医療機器をつくることができなくなってしまうのです。また、レアメタルのインジウムは、薄型テレビ、携帯電話、パソコンなどの液晶パネルに必要不可欠な金属であります。また、エコカーのバッテリー(リチウムなど)や太陽電池(セレンなど)などの環境技術にも、様々なレアメタルが欠かせません。このように現在の我々の身の回りには、様々な種類のレアメタルが使われているのです。このことから、レアメタルは、「近代産業のビタミン」(一つでも欠乏すると産業が成立しなくなる)とまで言われているのです。

3. 日本国内のレアメタル事情

皆様もご存知のように、日本は、ほとんど資源を持たない国です。レアメタル資源も同様に、そのほとんどを海外から輸入に頼っています。これまでに日本国内に輸入されてきたレアメタルの総量は、世界中の未採掘の量を上回るケースがあることがわかってきました。つまり、我々はすでに、世界中から多量のレアメタルを日本国内に溜め込んでいると考えることができます。これを、「都市鉱山」と呼んでいます。

4. レアメタルリサイクルは進んでいるの?

レアメタルには、様々な種類があって、値段も様々です。廃棄電子機器からの金属のリサイクルは、日本国内でもなされていますが、基本的には単価の高い金、白金、パラジウムなどの貴金属類しか回収されていません。これらの貴金属を回収した残渣(残りかす)は、様々なレアメタルを含んでいるのですが、それを回収するにはコストがかかりすぎるため、今のところ有効にリサイクルされていません。

5. レアメタルが環境に及ぼす影響は?

これらの電子機器には、レアメタル以外にも様々な元素が使用されていることも多く、その中には、生物にとって非常に毒性に高いものもあります。これらが、リサイクル過程で、きちんと処理されずに環境中に放出されれば、当然、環境破壊につながります。さすがに、日本国内では、様々な規制によって環境中に排出される可能性は少ないですが、発展途上国などでは、廃棄電子部品から、自宅の部屋で鉛などの回収し、生活の糧としている人々も多く居るようで、健康被害や環境影響が懸念されています。

6. 微生物の力でレアメタルリサイクル

微生物とレアメタルは、まったくかけ離れるものと感じるかも知れませんが、微生物の中には、レアメタルを体の中や体の外に濃縮したり、無毒化したりといった特殊な機能を持つものが知られてきました。様々なレアメタルを集めることができる微生物を見つけることができれば、いままでコスト的な問題から回収ができなかったレアメタルを回収することができます。現在、日本国内の大学・研究機関でも様々な微生物によるレアメタルの回収の試みがはじめられています。私たちの研究室は、この中でもレアメタルの一つであるマンガンを体の外側に濃縮する微生物を静岡県内の川から見出し、レアメタルの回収に利用できないかという研究しています。

7. マンガン酸化微生物によるレアメタル回収の一例

写真 河川床石から単離したMn酸化物を形成する真菌(カビ)
写真 河川床石から単離したMn酸化物を形成する真菌(カビ)。黒色〜茶色は不溶性Mn酸化物が形成していることを示している。

ここで、私たちの研究室で行っている微生物によって形成されるバイオマンガン(Mn)酸化物ナノ粒子の様々な元素回収への可能性について紹介します。マンガンは、地殻中で、鉄の次に多く存在する遷移金属で、レアメタルの一つとして挙げられています。写真は、静岡県内の河川から単離したMn(II)を酸化する真菌(カビ)の写真です。黒〜茶色になっているのは、このカビがMnを水に溶けない状態に変化させている様子を示しています。世界各地で、様々な種類の微生物(細菌・真菌)が、溶存Mn(II)を酸化し、菌体外に水に不溶なMn(IV)酸化物を形成することが明らかにされてきています。このマンガン酸化能を有する微生物によって産生されたバイオMn酸化物は、特に低濃度の鉛、カドミウム、ニッケル、コバルト、亜鉛など重金属イオンを非常に高い収容能力で吸着することが明らかとなってきています(表1)。また、変わったところでは、ウラン(水溶液中ではUO22+として存在する)に対しても高い効率で吸着(U/Mnのモル比で0.32)することも報告されており、微生物が形成したバイオマンガン(Mn)酸化物ナノ粒子が放射性核種を含む元素類の吸着処理にまで拡張できることを示しています。このような特長から、マンガン酸化菌によるバイオMn酸化物ナノ粒子の連続的な生産とそれを吸着媒体とした低コスト型レアメタル回収システムの構築が期待されます。

表1 微生物によって形成されたバイオマンガン酸化物への重金属イオンの高い吸着
対象イオン1) 最大吸着量2)
(mol/mol)
pH3) マンガン酸化微生物4) 文献
Pb 0.55 6.0 Leptothrix discophora Nelson et al., 1999
Pb 0.27 5.8 Pseudomonas putida MnB1 Villalobos et al., 2005
Zn 0.76 6.9 Pseudomonas putida MnB1 Toner et al., 2006
Zn 0.23 7.0 Acremonium sp. KR21-2 # Tani et al., 2004
Ni 0.12 7.0 Acremonium sp. KR21-2 # Tani et al., 2004
Co 0.30 7.0 Acremonium sp. KR21-2 # Tani et al., 2004
Co 0.16 6.5 Paraconiothyrium sp. WL-2 # Sasaki et al., 2008
Cd 0.69 7.5 Bacillus sp. WH4 Meng et al., 2009
UO22+ 0.32 7.5 Spore of Bacillus sp. SG-1 Wabb et al., 2004
  1. 研究に用いた吸着イオン
  2. 報告された対象イオンに対する最大吸着量を、固相 Mn に対するモル比で表した。例えば、Me/Mn = 0.5 は、固相Mnに対して、50%モル比で対象イオンが吸着することを示す。
  3. 吸着試験をした溶液 pH を示す。
  4. 吸着試験に用いた生物由来マンガン酸化物形成に用いた微生物を示す。 # は、真菌(カビ)、その他はバクテリアである。

8. おわりに

新聞などで、レアメタルの確保のために携帯電話のリサイクルに関する義務化が進められているという記事をご覧になった方も多いと思います。しかしながら、実際にはごく一部の高く売ることができるレアメタルだけがリサイクルされているのが現状です。レアメタル需要増加による新規鉱山(特に発展途上国)の開発による貴重な自然の破壊も危惧されています。便利な世の中の発展と貴重な地球環境のバランスを保つためにも、日本の産業継続的な発展のためにも、エネルギーをかけないレアメタルの回収技術の確立が急務な課題であると思います。

引用文献

(以上)

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